ソニー株式会社
クリエイティブセンター
Fumitaka Kikutani


インテリアデザイン・イベントデザイン

ソニーのクリエイティブセンターは、製品やサービスと直結するプロダクトデザイン/ユーザーインタフェースデザイン/パッケージデザインなどを担当する「スタジオ」と、企業としてのメッセージを扱うコーポレートデザイン案件や、ソニーブランドの魅力を伝える役割を担う「コミュニケーションデザイングループ」等がある。菊谷文孝氏は、スタジオとコミュニケーションデザイングループを兼務している。

略歴を教えていただけますか。

ソニー株式会社にプロダクトデザイナーとして入社し、コンスーマー向けオーディオ機器や、放送局向けカメラ等を担当し、その後ブラジルとロンドンのデザインセンターにディレクターとして赴任しました。海外で勤務していた時に、セールス部門の担当者から、「新商品を展示会に出展をするのだけれど、どんなディスプレイにすればいい?」といった相談を受けたのがきっかけで店舗デザインや、エレクトロニクスショーのブースデザイン等の空間デザインも手掛けるようになりました。

その後、帰国した際、クリエイティブセンター本社に空間デザインを担う部門がなかったため、新設されたリテールグループの統括となりました。現在は店舗やイベントブースのデザイン及び業務用機器を活用いただく場合の空間デザインなどを担当しています。

左:Digital Micro Recorder
右:Broadcast Camcorder

プロダクトデザインと空間デザインの関係性を教えていただけますか。

以前は店舗やイベントは各地域の販売会社の担当領域だったため、プロダクトをデザインした時の思いが伝わりきれていない展示になってしまったり、欧州と北米での最大のイベントでコンセプトの異なる展示になっている事などがありました。そこで重要な案件やコーポレートプロジェクトと位置付られるような案件は、プロダクトデザインからお客さまとのタッチポイントであるイベント/店頭まで一気通貫でデザインすべきではないかと言う事でクリエイティブセンターでも担当するようになりました。

商品を通してお客様にソニーのメッセージを届け、ソニーのブランドを体感いただける空間となることを心掛けています。

当時どのように空間デザインの提案をされていましたか。

最初は手描きイラストから始まって、3DCG等で行っていました。その後デザイン検討はSketchUpで3次元デザインするものの、つい最近までプレゼンテーションはそこから切り出したイメージのパワーポイントでのスライドショーでした。ウォークスルームービーを加える場合もありましたが、3次元空間を説明するのに平面のプレゼンテーションできちんと伝わっているのだろうか?という漠然とした課題を感じ、様々な手法を試していました。

その一環でSU Podiumのレンダリング講習会に参加した時に、パノラマ書き出ししたものを、スマートフォン+ビューアーで簡易VR体験できることを知りました。それが初めてのVR体験で、これなら課題を解決できるのではないかと思い、早速プレゼンテーションで簡易VRによるデモを取り入れてみましたが、参加者の反応は「なるほど」くらいで、議論が盛り上がることもなく会議は終わってしまいました。さらに改善策として複数の視点からのビューを用意したり、視点の切り替え方法など工夫してみましたが、これと言った反応の変化は見い出せずにいました。

SYMMETRYを初めて体験したときの感想をおしえてください。

2016年に3D BasecampというSketchUpのイベントで初めてSYMMETRYを体験し「探していたのはこれだ!」と思いました。あらかじめレンダリングしたVRは視点が1か所で球体の内側に一枚の大きな絵を貼り付けて中心から見ている状態です。360°見回せても移動することはできません。たとえば机の下を覗こうと思っても見られません。

一方リアルタイムで描画するSYMMETRYは自分の動きに伴った視差が再現され、立体感の認識ができます。「空間」を把握することができるため、没入感の度合いに圧倒的な差を感じました。しゃがめば机の下も覗けますし、上から俯瞰するなど移動は自在です。

その後、早速SYMMETRYを会社に導入しました。セットアップして初めて試す時、数人のデザイナーがいたのですが、その場で自分のデータを持ち込んでのデザイン検討会が始まりました。SYMMETRYはそれだけ人を引き付ける説得力があるのだと思います。モニターを繋げておけばヘッドマウントディスプレイを付けた人が何を見ているのかもわかり周囲にいる人とコミュニケーション取れるのもいいですね。

プロダクトのデザインでは最終プロセスとしてリアルサイズのモックアップ(模型)で確認するのがあたりまえです。さすがに空間デザインではリアルサイズのモックアップを作るわけにはいかないのでSYMMETRYでリアルに体感/確認できることは大きなメリットだと思います。

ミラノデザインウィーク 2018 ソニーデザイン展 “HIDDEN SENSES” のエクステリア検討時のスケッチ

導入前のエピソードなのですが、ある新店舗デザインで外に設置するSONYロゴサイズをマーケティング部門と確認する際に、わざわざ似た建築物を選んで、その建物に想定するサイズのロゴを貼り、周りからどう見えるかを確認しました。

けれども実際に店舗を建てる場所の環境とは違うので、判断しきれなかった事があります。結局、本社にある400インチのプロジェクタースクリーンに周囲までレンダリングした画像をリアルサイズで投影すると言う大掛かりな手法でデザインの決定をしました。今ならSYMMETRYがあるので周りの環境もモデリングしてしまえば、大型スクリーンのある大会議室など不要で現実に近い形で検討できますね。

ミラノデザインウィーク 2018 ソニーデザイン展 “HIDDEN SENSES” の完成したエントランス

現在どのように「SYMMETRY」を活用されていますか?

現在は、SketchUpでイベント会場、そこに吊り下げる巨大バナー、店舗のサイネージ、各種プロジェクトに絡んだ空間提案などをデザインし、SYMMETRYで担当者内確認やプレゼンテーションに活用しています。

当初はプレゼンテーションツール的な使い方が多かったのですが、使い慣れるにつれ、日々のデザイン検討用として活用が多くなり、なくてはならないデザインツールの一つになっています。たとえばSketchUpのシーン(Scene)機能でデザインパターンをいくつか設定しておくと、SYMMETRYのシーン機能でそのシーンをVRの中で簡単に呼び出すことができます。これにより、VR内でのデザイン案を瞬時に変えての比較検討が可能です。移動も自由なので視点を変えての検討も意のままです。

春にミラノで開催されたデザインイベントにソニーデザインとして参加したのですがその会場デザインにはSYMMETRYをフル活用しました。まず多くのメンバーが現地を見る前に図面から会場をモデリングし、展示ペースの概要を理解してもらいました。展示スペースまでのアプローチに問題があることがわかったので導線計画の検証から始まってスペースの区切り方、什器間のスペース、間仕切り壁の高さ、説明パネルの位置やサイネージの取り付け高さ、プリントしたサインの見る位置によるズレの補正までVRで検討できたおかげで、現場では微調整レベルの手直しだけで済みました。

ミラノデザインウィーク 2018 ソニーデザイン展 “HIDDEN SENSES” のインテリア検討時のスケッチ
ミラノデザインウィーク 2018 ソニーデザイン展 “HIDDEN SENSES” のインテリア完成時の写真

今後SYMMETRYをどのように活用されたいですか?

今後追加される「ライティング」の機能を活用し、よりリアリティのある空間を再現したいと思っています。光の具合によってモデルの見え方や雰囲気も違いますので、「ライティング」機能を活用することにより、例えば窓がない閉じた空間のデザインであっても、よりリアルに再現ができるのではないかと思っています。

そして近い将来SYMMMETRYのVR空間内にPCのモニターあるいはそれに代わるインターフェースがあり、そこで操作した結果がすぐさま同じVR空間内で反映されているような事を夢見ています。現実の机の上にはモニターに代わってVRグラスとでも呼べるような軽快なヘッドマウントディスプレイが置かれている時代が来るかもしれませんね。